近藤ようこ「春来る鬼」
結局わたしにはよくわからなかった夫の骨が
安物の喪服を通してわたしに触れてくる
それはわたしたちのチグハグな結婚生活の
終わりにふさわしい物理現象だった
わたしはなにもしてない
売春すらしてない
わたしは自分の影を売って
生活してるのよ
勉強は単なる趣味だわ
他にすることがないからやってるのよ
わたしの生活には創造も生産もないのよ
わたしね
男だったら土方か何か肉体労働してると思うわ
生きがいがあると思うわ
肉体の実感があると思うわ
小娘に合わせてこんなことをしている自分はみっともない
だがみじめさや恥ずかしさが恋愛の本質だということを思い出した気がする