NHKアーカイブス ドラマスペシャル「父の詫び状」

向田邦子、原作杉浦直樹、吉村実子ほか

みじめだった自分の少年時代を
彼の上にかさねて見ていたのだろう

必要なときのやさしさ
ドラマって、こんなに木目細やかに表現できるのだな。
カットの使い方、ズームの方法、表情の変化、セリフの強弱、絶妙なカット。
すばらしい。

立派な人間になれよ

家族にはあれほど暴君である父が
わたしたちには見えないところで
こういうお辞儀をしてきたのだ
この姿で戦ってきたのだ
わたしは、今でもこの夜の父を思い出すと
胸がうずくのである

ドラマ。ごく、日常を、はっきりとした対比をもちこんで、描く。
メリハリがある。はっきりとした意図がある。
たんたんと流れているようだが、しっかりしたものがあるのだな。
じっくりと見させるものがある安心感。
原作を読んだ時の印象は、もっと子どもが小さく、父親はとことん物分りがわるい、体面だけを気にする印象だったが、演技としてみると、大変人間味がある。私の印象がまちがっているんだろうが、こういう話は時代背景をしっかり理解していないといけないのだろう。見ながら考えたことは、向田邦子って、自分の祖母の世代の人である。なので、この話の父親は、さらに一世代前なのだな。そう考えると、自分と親の世代の差なんて小さいものだと思う。祖母の世代でも、こういうことを経験してきたのだと。
 この話は、当然、父と子の関係で変わらない部分もあるし、変わっている部分もある。だけれども、割かし目にいくのが、「変わらない」部分だ。親は子どもに対して、威厳ある存在であろうとする。その一方で、外では頭を下げないといけない。こうしたことは、おそらくこれからもあるだろう。
 この父が面白いのは、躾ける側としての親、一家を守る立場としての父の威厳を保とうとする部分だと思う。その限界を子どもに見透かされていく、子どもに見破られていく過程が読み取れる。 
 原作では、ここまで読み取れなかったけれど、このドラマだと、そうした過程がよくわかった。丹念に作られたドラマだからだと思う。現実の人間関係にこそドラマがある。