文学部唯野教授

文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)

文学部唯野教授 (岩波現代文庫―文芸)

 「この『文学部唯野教授』という虚構テクストに於いては」と、唯野が喋りはじめる。「君の文壇ジャーナリズムの規範と、ぼくの、メタ物語に依存していたため今や衰退の危機にある大学というものの規範との対置に、テーマのひとつが置かれている。現実の日常生活では、つまり外界の支配的なシステムの規範としては別の位置を占めているけど、ここではコード転換されて、同一の地平の中に置かれてしまって、お互い自分の原理に合わない可能性は受け付けないことになっているの。だからこうやって喧嘩しちまうの。そこでぼくの野心だけどさ、小説を書きたいというのはその野心のうちのほん一パーセントに過ぎないわけ」

 そうとう面白かった。これって読者のエゴを満たす要素があるんだろうと思う。
 この小説って大学教授を純粋に批判しているって側面よりは、大学の世界にものすごい俗物を持ち込むことによって、大学を批判しているように読者に感じさせる側面で、読者のエゴをくすぶらせるところが肝なんだろうと思う。そういうギャップをつくるところに、パロディの面白さがあるんだろうけれど、つまるところ読者の方がバカにされてんじゃないの?って思う。
 適度の文学理論が挿入されて読者の知的好奇心をほどほどに満たす。ブサイクな主人公に都合のいい恋愛があって、まわりの人物はみんな俗物。あるいみ、ものすごく都合のいい世界で、読んでいてすっごく安定した気持ちになる。適度のメタフィクション、適度のアクションって具合に。でも、肝心なメタフィクションであることで、あえて表現したい考えみたいなのは読み取れない。
 そういう意味では、よくできたエンターテインメント小説だと思う。ほんと、世の中、ナルシストな小説ばっかで、こういうのつくるほうが難しいんだよな、と関心。