蒲田聡子「あの国いったいどんな国」山と溪谷社

あの国いったいどんな国

イスラエルパレスチナ P255

 でも一方でこんなことも言えるのではないか。彼女の姿勢そのもの、自分は気心知れた人しか、イスラエルに住むアシュケイジ・ユダヤ人としか付き合わないのだという考え方そのものが、却って周りの人を退けているのだ、と。彼女のウチの世界とソトの世界との分厚い壁はその半分が実はタリラ自身によって築かれている。そんな見方もできるような気がする。

タイ p369

 共産主義がいいか悪いか、を言っているのじゃない。それよりも、一つの思想の善し悪しが支配者によって一方的に決められてしまう、その体制がおかしいような気がするんだけど。自分で考える機会すらも与えられず、議論や批判の場もないままに、ただ上から一方的に押し付けられただけの価値観をそのまま受け入れることは危険すぎるんじゃないだろうか。

ポーランド p111

 「ただこれだけはわかりましたよ。悪いのはヒットラーアイヒマン、ハイドリッヒといったナチス幹部の人間だけじゃないってことがね。ホロコーストの本当の責任は、彼らのような人間に権力を握らせてしまった人々、すなわち当時のドイツ一般国民にあるってことが」

 自分の興味のある国だけを読む。かなりいい本だった。こういう旅行のスタイルもあるのかと。ちゃんとその国の歴史・政治・文化を知っていて、その国の問題点も自分なりにわかっている。だからこそ明確な視点をもって行く場所を決め、興味をもって現地の人と接しているのだと思う。自分もここまで勉強していく国のことをよく知って、そして知ろうとして、興味対象を広げていって、旅行をすれば、この人みたいに深い旅行もできたはずだと思う。タイもカンボジアも行ってから、いろいろなことを調べたしな。それと、やっぱ英語がものをいうな。この人自身がもっている好奇心もすごいと思う。行く前にもっていたその国の情報と、現地に行ってから接する情報、そしてそこから自分なりに答えを出しているところがすごい。その国に対する専門家なわけではないから、学者さんみたいに先入観に支配されてるわけでもなく、ちゃんとフレキシブルに考えて地に足がついてる感じだし。あくまで一旅行者としての立場から書いてる気がした。そこが共感がもてる。