山本おさむ「わが指のオーケストラ」

 知らなかった。聴こえないとはこういう事なのか!! 言葉を持たないというのはこういう事なのか!!

コミュニケーションの断絶から疎通の流れ

 手話を使って他人と少しでも通じあえる事 その事で心の解放感を味わっているのだ

手話って自己開示が絶対に必要

耳がきこえずもの言えぬ子供たち...
その子等が他人に心を開き言葉を知り...
自分の世界を広げ 豊かな人間に育っていく...
その事が音楽なんだと...今日初めて知りました

うるわしい やさしい感情は音楽をきくことによって作られ 〜
そのような音楽は 子供の心を知らず知らずのうちに柔らかく そして美しく育ててゆく

 音楽とは、人間の感情なのだということ。多くの音楽を聴くことは、多くの感情を知ることなのだと思った。

 子供たちの様子が変わった
 私の手に視線が集中し
 空気がピーンと張りつめる

 良い授業の見本。それは熱意と、その情熱の疎通、一体感。

 高橋君の手話が変わった...
 なめらかで優雅だ...

 それは単なる音ではない
 音楽は様々な感情を表現し それを聴く者に同じ感情を呼びおこす
 弱い音 強い音 リズム メロディー 協和音 不協和音
 それらを通して 悲しみや喜び 愛や憎しみを 言葉以上に伝達する

 だとすれば「物語」も同じではないだろうか
 「物語」の中に込められた悲しみや喜び...
 それを音楽のような手話で表現し語る時...
 子供たちの心の中に音楽を聴いたのと同じような感情が喚起されるのではないだろうか...

 音楽だ...
 手話こそが音楽だったんだ!!

 手話の強弱が、言葉の流れを表現し、物語が使える感情を介して、音楽となる瞬間

 どうやれば差別のない社会が作れるのか...
 うまく説明できないけど...
 そんな思いが体の底からつきあげてくるんだ

 我々がおし つんぼと差別を受けてきた事と
 今度の震災で朝鮮人社会主義者が虐殺された事は決して無関係じゃない
 国家は権力を維持し強化するために差別の体制をつくりあげ...
 軍隊や警察や市民に差別を実行させるんだ

 上の人物がなまけてはいけない。そこから社会の不正は生じる。富める者の怠慢が不平等・社会格差をうむ。上に立つものは、それを自覚して自らを律しないといけない。差別される側は、ある意味で無力だ。聾唖者は話せないのだから。差別が生まれるとしたら、話す側なのだ。

 ここは君たちろうあ者の"場"だ
 君たちはここで初めて自分以外のろうあ者と出会い
 手話を知り 手話で語り合い 友情を育む
 差別を知り 社会の矛盾を知り 怒り さらに語りあう
 そして君たちろうあ者が人間らしく生きたいと願うかぎり
 そのような"場"が消えて無くなる事はない
 ろうあ学校とはそういう所なんだ
 もっともっと素晴らしい"場"を作りそれを社会に広げていく
 それが我々の仕事なんだ

 「いったい自分になにができるのかと思うといたたまれなくなります」という教え子に対する答え。差別に反抗できないとしても、場を作り、それを広めることはできる。同じものが集い気持ちを共感することができる。それだけでも意味がある。

 人間だ 人間を育てるんだ
 人を思いやるやさしい気持ちと
 差別と闘う強い意志を持った人間をたくさん育てるんだ

 社会を前にして無力感を感じてはいけない。集う、育てる、そのことに必ずしも意味はあるのだ。

 耳のきこえない事 手話をする事は恥ずべき事とされ...
 唇を読め 発音をしろ 健聴児に追いつけ追い越せと尻をたたく
 要するに口話主義とはろう児をろう児ではないものに作り変えようとする教育...

 ろう児が社会にでて困らないようにする、という思いを込めた口話主義は、ろう児の人間性を無視しているのでは? という主張。

 私は盲聾の不自由な身を嘆いてはおりません
 いかなる運命にも感謝し 神に対する奉仕を栄光として
 人と人とが美しい心で結ばれなければなりません

 この言葉に乗り越えられた信念を感じる。ヘレン・ケラー

 今日学校でみんなで大切な事を話し合ったんだ
 そして決心したんだ
 決心したら勇気がわいてきたんだ

 子供には子供の世界があります
 我々教師は一日一日成長していく生活者としての彼等に その精神生活に糧をあたえてゆかねばなりません
 それには彼等の言葉であるところの手話に依らねばならないと考えます
 彼等には手話こそ最も自然で解り易い言葉なのです

 人間は自分が自分だけの努力をして幸福を得たとしても
 それは単なる自己満足 自己本位の幸福だと思う
 そうではなく 皆が協力しあって得た幸福というものは
 決してこわれる事がない それが真の幸福というものだ

  一生涯を賭けて情熱を注げるものがあることの素晴らしさ。ひとつの生き様。実直に生涯をささげられるものが欲しい。「これだけは」と言えるものを。
 山本おさむのまんがは、心の栄養になる。この人の信念はすごい。めざすべきものがあるのだろう。真に人間として表現すべきものを知っているのだと思う。こういうのを読むと、強くなれる。エネルギーの糧となる。漫画自体がすごいエネルギッシュだからな。