杉浦日向子

「とんでもねえ野郎」
 この主人公の無責任さ、かっこいいって思った。弱い!んでもって無責任!いい加減!ずるい!しかしどこか乙である。遊んで、奥さんが美人ってとこが、そうさしてるんだけど、とことんいい加減ながらも、前向きでポジティヴだからだろうか、不思議な魅力と爽快感がある。よくある江戸ものの人情物ってたしかに、「つくられたもの」なんだよなぁ。勧善懲悪とか美意識って、どこかパターン化されたもので、ほんとうの美意識・道徳って違うとろこで生まれて表現されるものなのかもしれない。この漫画に道徳があるのかどうかは別として、美意識はあると思う。よくある時代劇でかわされる堅苦しい美意識が偽者であることを気づかせてくれる。
 現代で考えてみたら、たとえば道場破りだとか、迷惑なもんだよ。それを知恵をしぼってうまいこと騙してかわす。そして「飲みに行こう」ってなる。これって漫画読みながら、「おもしろい」って思うけど、よくよく考えたら「ごく普通のこと」なのかもしれない。この道場破りをけしかけてくるほうが、ちょっとおかしいんだよ←現代の目線からみたら。でも、江戸時代はそれが当たり前だったわけで、そう考えると、これは歴史物という形式を使って、「常識」って枠をうまいことずらしていると考えることができる。「かっこいい」と感じるのは、なにも主人公がかっこつけているわけではなくて、一貫性があるからだろう、現代の感性からみて、なのだが。だから歴史物という形式の中で、うまいこと現代人を出して、そこで生じるギャップを表現していると考えることもできるんだ。かっこいいって感じるのは、そうした「囚われていない」姿から生じているんだと思う。