エル・スール

エル・スール [DVD]

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 後半、成長した娘が父親に語る場面が印象的だった。
 とてもナチュラルで個性的な話し方。
 あの年齢特有の、すこしトゲのあるというか、自分が話す言葉に、完全に自分のものにしきれていない、しかし身につきはじめている、個性がにじみ出てしまう"身のこなし"でニュアンスを持たせてしまう、あの話し方。
 あの場面で一人の人として父親と向き合う、眺めてきただけの娘とは違う姿で父親と向かう個人が描かれる。
 そのときの父親は、あまりにも無力で、その父としての意志がないように見える。受身で、もう前に進む力がないように。
 後のシーンから、あの場面が決定的な場であったと分かるのだが。
 それまでの、「何か思いを抱えている」「不思議な」父という、その魅力がなくなってしまっている。


 人が人を見る、というのはこの映画のような感じになるのだと思う。主観的に父を見ている娘を客観的に描くと。
 なにか、「人を見ている人」その姿が克明に描かれいるように思う。
 見て、そして、思う、という姿。自分の中に、人を思う心を持つ、その姿。
 そして、その思いを表すのが最後の喫茶店の場面なのだと思う。
 しかし、あの場面の少女は、父親にとっては強すぎるように思える。それまでの少女の姿と比較して。その思いを表にあらわしてしまうと、あのようになってしまうのかと。