批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書) (新書)

広野由美子 (著)

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

 この小説を視覚化することは、怪物を一方的に「見られる存在」に規定してしまうことにほかならず、怪物の側から「見る」可能性を遮断してしまう。

 ここで、「サヴィル夫人=含意された読者」は、ウォルトンの熱意を見て笑みを浮かべる寛容さに加えて、じゅうぶんな読書経験と教養、潔癖さ、並はずれた不思議なもののなかに真価を見出す洞察力をも備えていることが、想定される。このようにウォルトンの手紙によって読者の反応が操作されたうえで、フランケンシュタインの語りが始まる。それは、異常な物語を読み進めながら、読者がフランケンシュタインへの共感を保ち続けるための、作者の側の戦略と言えるだろう。