会社で働くということ
- 作者: 森清
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/02/20
- メディア: 新書
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日常の仕事は、何のためにするのでしょうか。おさらいしてみましょう。一つには、自分が食べていくことと家族を養うためです。また、趣味を楽しみたいからでもあります。もう一つには、働くことを通して他の人たちに奉仕する、今の言葉で言えば社会貢献をすることです。そのためには、自分のためということを我慢しなければならないこともあります。我慢というよりも、自分の働きにとらわれていると、他人への奉仕などできるはずがありません。他人に奉仕させて頂いて、そのことを続けるために自分が食べること、家族を養うこと、趣味を楽しむことが許されるのだと考えたい。そのような生き方の中で、わがままを言う自分、自分本位に生きたいと思う自分などと戦って、真の自分(自己)というものがわかってくるでしょう。これが、「日常のすべては禅だ」ということなのです。
徹底して現在を生きること。勉強するとき、仕事をするとき、遊ぶとき、その目前のことに熱中してこそ、その人にしか果たせない成果が得られる。個性というものは、そのようにして身につくものです、これを職業に移して言えば、プロフェッショナルの世界のことです。
職業を選ぶ、就職する、そのような折りにもまたその一刻一刻を大切に果たしていきたいと思います。現実をしっかりみつめて職業を選び、就職し、働いていきたいものです。その折々に最善を尽くす。それが何よりも大切なことと考えます。
これまで、会社に就職すること、会社に勤めて働くことについて書いてきました。ところが、若者のなかには、必ずしも会社に勤めなくともいい、自分の思うよう生き方をするために一つの会社に勤めないで暮らしていきたいと考える人たちもいます。
それもいいでしょう。しかし、職業意識をしっかり持って働かないと職業能力が身につきませんし、そうすると他人への奉仕が思うようにならないで社会と結ばれにくくなるということをよく考えてください。
私たちは、一人で生きているのではありません。真の自分を探りながらほんものの「自分流主義」を生きるためにも、生かし、生かされる関係が大切なのです。
しかし、ものが豊富にあり過ぎてものの価値がわかりにくくなっていること、社会のしくみが工夫されて、何をするにも苦労が少なくて済んでしまう時代状況を反映しての気楽な自己実現で本当の自己実現ができるのか、職業生涯の喜びが体験できるのか、そのあたりをもう一度考えてみたいと思います。
そこで一つには、議論をしながらいい人間関係を維持し、それぞれがいちばん納得する方法を早く決められるような議論の方法、会議の持ち方、意思決定の手段を確立しなければなりません。そのようなルールと手段ができ上がれば、職場での人間関係はもっとスマートで明るいものになるでしょう。
生きている周辺から全く切れて育つ個性というものはありません。ですから、群れのなかにあって個性は作られ、群れのなかで暮らしていて個性が光るというように考えたい。自分にふさわしい群れにいて個性を磨いていれば、あるいは逆に群れの性格に関わらず独自な個性を高めていれば、光って見える時が来ます。そういう人は、ゆかしい人として人々に認められるのです。