ペドロ・パラモ

フアン ルルフォ

ペドロ・パラモ (岩波文庫)

ペドロ・パラモ (岩波文庫)

 山をいくつも越えて、だんだんと下りの道になった。熱い風の吹く高いところから下って、暑さそのものの無風地帯におれたちは少しずつ沈んで行った。あらゆるものが何かを待っているようだった。

 女はもう一度おれにあいさつをした。子供たちのはしゃく声も、鳩も、青い屋根もなかったが、それでも町が生きているような気がしてきた。静寂の音しか聞こえないのは、おれがまだ静けさというものに馴染んでいない生だろうと思った。それに頭の中は、いろんな物音や人の声でいっぱいだった。

 「今あんたに言っておきたいのは、永遠の道のどこかで、いずれあんたのお母さんに追いつけるだろうってことだけさ」

 ・・・青々とした平原。穂が風にそよぎ、地平線が波を描くのが見える。午後になると陽炎が立って、雨が幾重にも渦を巻いて降りそそぐ。土の色、アルファルファンとパンの匂い。こぼれた蜜の匂いを漂わせる町・・・

 風と太陽、そして雲。はるか上には青い空。そしてその向こうには、おそらく歌声が聞こえるだろう。もっと素晴らしい歌声が・・・要するに希望があるんだ。私たちの苦しみをやわらげる希望がある。
 だがミゲル・パラモよ、おまえには希望がない。おまえは神の許しを受けずに死んだ。髪からは何も恩給も受けられないさ。

解説

『ペドロ・パラモ』の物語は、徹頭徹尾過去の話だ。