ペドロ・パラモ
フアン ルルフォ
- 作者: フアン・ルルフォ,杉山晃,増田義郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/10/16
- メディア: 文庫
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山をいくつも越えて、だんだんと下りの道になった。熱い風の吹く高いところから下って、暑さそのものの無風地帯におれたちは少しずつ沈んで行った。あらゆるものが何かを待っているようだった。
女はもう一度おれにあいさつをした。子供たちのはしゃく声も、鳩も、青い屋根もなかったが、それでも町が生きているような気がしてきた。静寂の音しか聞こえないのは、おれがまだ静けさというものに馴染んでいない生だろうと思った。それに頭の中は、いろんな物音や人の声でいっぱいだった。
「今あんたに言っておきたいのは、永遠の道のどこかで、いずれあんたのお母さんに追いつけるだろうってことだけさ」
・・・青々とした平原。穂が風にそよぎ、地平線が波を描くのが見える。午後になると陽炎が立って、雨が幾重にも渦を巻いて降りそそぐ。土の色、アルファルファンとパンの匂い。こぼれた蜜の匂いを漂わせる町・・・
風と太陽、そして雲。はるか上には青い空。そしてその向こうには、おそらく歌声が聞こえるだろう。もっと素晴らしい歌声が・・・要するに希望があるんだ。私たちの苦しみをやわらげる希望がある。
だがミゲル・パラモよ、おまえには希望がない。おまえは神の許しを受けずに死んだ。髪からは何も恩給も受けられないさ。
解説
『ペドロ・パラモ』の物語は、徹頭徹尾過去の話だ。