「イン・ザ・プール」

イン・ザ・プール [DVD]

イン・ザ・プール [DVD]

原作:奥田英朗 著『イン・ザ・プール』(文藝春秋刊)
脚本・監督:三木聡

松尾スズキほか

 04年、IMJエンタテインメント・日本ヘラルド映画ほか。松尾スズキオダギリジョー。悩みを抱える患者たちを、いいかげんな治療でさらに混乱させる精神科医。そんな彼のもとに、プール依存症のエリートビジネスマンや妻に去られた男性、強迫神経症の女性フリーライターらがやって来る。三木聡監督。

 伊良部総合病院の地下にある神経科精神科医、伊良部のところに24時間勃起しっぱなしという病に冒された営業マン、家のガス、電気、鍵をしめたか気になって、何度も確認のために帰宅してしまう強迫神経症ルポライターなどの患者がやってくる。が、そんな患者たちも引きまくる変人の伊良部。患者を振り回し、いい加減な発言も多いが、その中には核心に迫る言葉もあり、患者たちは次第に伊良部にのせられていく…。
直木賞を受賞した奥田英朗の『空中ブランコ』の伊良部シリーズ第1作が、松尾スズキ主演で映画化。松尾が自分の個性を伊良部にぶつけたことで、原作とは違う、映画版の新・伊良部が生まれた。しかし、松尾のひとり舞台と思いきや、勃起症の男を演じるオダギリジョー神経症市川実和子、ほかプール依存症の田辺誠一など患者を演じる役者たちの好演のおかげで、心の病がテーマの作品がユーモラスで後味さわやかな作品に。ストレスの捌け口を見いだせずに苦しんでいる人にオススメ。思い切り笑って心が軽くなること必至だ。監督はTVバラエティ&ドラマの演出を手掛けてきた三木聡。(斎藤 香)

 う〜ん、なんといか。何にひかれるんだろ。この精神科医を許容する心の広さみたいなものかな。悩みを相談に行った精神科医の方が、余計に問題があるように思われるのに、本人はまったくもって気にしていない。基本的に、相談に行った患者達の方も、本質的には悩んでいない。なんかそういう感覚かな。ひどい状況が、自分の背景にあるような気がするのに、みんな暗く悩んでるわけじゃない。プール恐怖症の人も、会社ではうまくいってるし、その禁断症状の描写にも悲壮感はない。なのに、やっぱりこの状況はおかしいだろうって思いながらも、見ているほうも深刻に悩まない。それでも、この人たちの症状が面白く見つづけてしまう。患者も観客も悩んでいない状況で、ちゃんと悩みに応えるき医者がいっそう状況をおかしくさせて、ところどころで本質をつく。まぁ、ゴチャゴチャしてる常識的な悩みを、非常識が正すような。そして、その逆もあり。
 これって、もっと大きな視線で見て、なにが面白いんだろう。コント的なやり取りで、爆笑するほどの面白さはなくて、カメラのアングルも普通だし、と。でも、最後まで見させる面白さがあって、それは表面的なものじゃなくて、もっと、人間の本当の姿に迫っているなぁっと思わせる面白さがある。やっぱ、ネックは、それぞれの人物の、不安感みたいなものかなぁ。オダギリも市川も田辺も、やっぱそれぞれ、見えない何かを前にして、『なんとかしよう』って思ってるんだよな。そこが空回りしてる不思議さかな。