バレエの宇宙

 ダンスは生身の人間が描き出す瞬間の幻である。...。しかもその幻には人間のあらゆるドラマ、あらゆるパッションが映し出されているのだ。

  • 踊りというのは、観客に錯覚を与えるもの。演者は理想的な幻影に近くなっていく。
  • 文学は言語表現、舞踊は身体表現と正反対のものではない。文学にも生理的なものが、舞踊にも言語的、物理的、幾何学的なものがある。舞踊を習うということは、一つの言語を習うということに似ている。
  • バレエは総合芸術。文学、音楽、絵画、舞踊。
  • 言葉という道具は、ダンスを描くにはあまりのも不完全。

 キリアンのもう一つの特徴は、『トルソ』や『結婚』などに見られるように、ふしぎに内輪な造形を用いて、深く沈潜した内面性を表現したことである。...、キリアンは床に膝を立てて、足首を曲げて、一種の鬱屈した感情を描き出す。そのような動きにおいては、もはやリズムも拍子という整合性を超え、現代音楽の不明解な幽明へと踏み込んでいくのである。...。
 流動的な発散と内面的な沈潜とを組み合わせることによって、キリアンは静かな叙情性に浸された独自の世界を創りあげる。

  • 注目の振付師

アンジェラン・プレルジョカージュ
ジャン=クリストフ・マイヨー
大島早紀子
ナチョ・デュアト

 バレエに関する本の中でもっとも「美しいな」と思った文体の本。今日読んだ三浦雅士もかなりすごいが。やっぱ書く人に整合的な美学が欲しい。美術関係の本はとくに。